中皮腫について

 1.中皮腫とは

 胸部の肺あるいは心臓、腹部臓器などは、胸膜・心膜・腹膜などという膜に包まれています。これらの膜の表面を
おおっているのが「中皮」で、この中皮から発生した腫瘍を中皮腫といいます。したがって、中皮腫には、その発生部
位によって、胸膜中皮腫(80%)・腹膜中皮腫(20%)・心膜中皮腫(稀)・精巣中皮腫(稀)などがあります。
 また、中皮腫には、悪性のものと良性のものとがありますが、一般的に中皮腫と記載しておある場合は悪性を意味
します(このHPではすべてそうです)。悪性中皮腫はまれな腫瘍(肺がんに比べるとその頻度は1%以下)です。
 中皮腫の80%以上はアスベスト(石綿)が関与していると考えられており、近年非常な増加傾向となっています。
 中皮腫はアスベストの低濃度ばく露でも発生しますが、初回ばく露からおおむね40年(最低でも20年後)経過しな
いと発症しません。従って近隣ばく露や家庭内ばく露など、ばく露量が少なくても、長年月を経過することにより中皮
腫が発生しうるということになります。

2.症状

 症状では息切れと胸痛がもっとも多く、ついで咳、発熱などです。
 悪性中皮腫は限局性のものもありますが、一般にはびまん性に胸膜あるいは腹膜などにそって広範に拡がってい
きます。胸膜のびまん性悪性中皮腫では、大量の胸水貯留による呼吸困難や胸痛がおこります。胸壁のしこりを触
れるようになることもまれにあります。
 腹膜の悪性中皮腫では腹水貯留による腹部膨満や腹痛が多く、女性の場合は卵巣ガンとの鑑別が必要になりま
す。

3.診断

 悪性の胸膜中皮腫は、胸部単純X線写真や胸部CTで肺全体をつつみこむように拡がった胸膜の肥厚や多数のし
こりとして認められ、胸水を多量に伴うこともあります。しかし、肺がんなどの胸膜播種(きょうまくはしゅ:肺がんが胸
膜面全体にばらまかれて拡がった状態)との鑑別が難しい場合もあります。限局性で腫瘤状になる中皮腫では胸膜
直下の肺ガンとの鑑別が必要です。
 その他の検査としては、胸に針を刺して胸水を調べる方法がよく行われます。採取した胸水中のヒアルロン酸が10
万ng/ml以上あると中皮腫の可能性があります。また胸水中の腫瘍細胞を調べたり、局所麻酔下の生検(組織採
取)や胸腔鏡などで胸膜面の腫瘍を採取してそれらを調べます(病理組織学的検査)。

4.治療

 一般には、悪性胸膜中皮腫という場合、びまん性のものをさしますが、悪性びまん性胸膜中皮腫は、非常に予後
不良な病気です。これに対する治療には、外科療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)および対症療法があ
ります。

5.病期(ステージ)

悪性胸膜中皮腫は、病気の進行ぐあいによって以下の4つの病期に分けられます。
I期 片側の胸腔内にとどまっているもの。
II期 胸壁・縦隔(じゅうかく:左右の肺の間の部分、すなわち心臓や食道・大血管などがあるところ)・反対側の胸膜
まで進んだもの。
III期 両側の胸腔や腹腔あるいは胸腔外のリンパ節を巻き込んで進んだもの。
IV期 血行性の転移を伴っているもの。

6.病期(ステージ)別治療

I期のものに対しては、外科療法が行われることがあります。肺を含めてすべての病変を、胸膜、および場合によって
は横隔膜や心膜ごと切除する胸膜肺全摘術が行われます。しかし、このような大きな外科療法でも、完全にとりきれ
ないこともあり、胸膜のなるべく広い範囲を切除して胸水の貯留を防ぐような対症的な外科療法が他の治療(放射線
療法や化学療法)と併用して行われることもあります。また、多量に胸水が貯留して呼吸困難のあるような場合に
は、胸水を体外へ排出し呼吸を楽にするために、管を胸の中に挿入する処置を行います。

II期以上の病期で外科療法で全病変をとりきることが困難な場合には、放射線療法や化学療法が行われます。放射
線療法は、放射線を腫瘍の存在する範囲に照射して、腫瘍細胞を殺し腫瘍を小さくする治療法です。また、化学療
法とは、腫瘍細胞に抗がん剤を投与する治療法で、通常点滴で薬を全身に投与します。
 
胸膜中皮腫診断の流れ
理学所見 ; 聴診(呼吸音減弱) 打診(濁音) 皮下腫瘤 
画像診断
胸部X線・胸部CT
←←←
→→→
←←←←
胸水貯留
有り(0%)
→→→   ←←←
胸膜の腫瘍性肥厚
有り
→→→→
↓ ↓
胸水穿刺

胸水細胞診
(診断率30%)

*ヒアルロン酸 
(10万ng/ml以上で特異度98%)
*CYFRA21-1
胸腔鏡
(局麻orVATS)

隆起型・肥厚型

胸膜生検
(診断率98%)
CTガイド針生検

(診断率83%)




中皮腫もう少し詳しく


 中皮腫の検討(厚労省検討会)

 「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会」(厚生労働省 H15年)は、平成11年度から平成
13年度までの過去3年間において、石綿による中皮腫として労災認定された93件について検討しています。
 部位別件数は、胸膜70件、腹膜23件(胸腹膜、精巣鞘膜の各1件を含む)で、全例男性でした。以下検討結果の
要点を記載します。

*日本おける中皮腫の3年間の労災認定事例を対象とした検討。
*石綿ばく露開始から発症までの潜伏期間は平均38年(最短11.5年)、発症年齢は平均61歳。
*石綿ばく露を受ける職種の従事期間は平均20.2年(最短2.3年)
*石綿ばく露の形態は、石綿製品製造業などの定常的なばく露を受ける形態のみならず、保温・断熱材の補修・メ
ンテナンスなどの非定常的なばく露によるものも多く、直接石綿ばく露作業以外の作業に従事していた者にも発症し
ていた。
*以上より、「概ね1年以上の職業による石綿ばく露期間は、中皮腫発症の重要な要因の一つといえる」とした。
*日本では全国規模の中皮腫登録もないことから、真に労災補償の対象とすべき中皮腫の件数が把握できない状
況にある。今後は、全国規模での中皮腫登録の必要性も検討されるべき。

*職種別検討結果
  @「船舶の製造及び修理作業」27件
  A「石綿パイプ製造作業」12件
  B「断熱・保温作業」9件
  C「鉄道、車両製造作業」8件
  D「石綿吹き付け作業」6件
  E「配管・板金作業」5件
  F吹付け石綿された空間で電気工事やエレベーター・変圧器の設置作業でのばく露が4件
  G倉庫内で石綿製品の保管や運搬2件
  H石綿含有建材の加工作業2件
  I溶接の際に養生のために石綿布を切断する作業2件
  J各種機器のメンテナンス時における石綿製品の取り扱い2件
  K傍職業性家庭内ばく露として、石綿工場に働く夫の作業衣を洗濯することによりばく露を    受ける妻や、空
になった石綿袋を家に持ち帰り、子供がそれで遊んだりすることによる    ばく露がある


  (厚労省資料資料)

 北陸3県の中皮腫死亡数(厚生労働省)
99
00
01
02
03
合計
福井
3
2
2
5
7
19
石川
9
11
7
4
11
42
富山
14
12
7
11
18
52
 注 石綿関連ガン(中皮腫・肺がん)の労災認定数は1979年以降03年に
    富山で1例と報告されている。しかし、新聞報道により、福井でも98年
    に電気工事の男性が死亡し労災認定を受けたことが報道された。

 リンク
  中皮腫治療情報(医師用)
  日本呼吸器学会インフォメーション
  海外治療情報(National Cancer Institute)
  海外臨床試験@(進行中) 
  海外臨床試験A(終了結果報告)