産業医科大学 産業生態科学研究所 呼吸病態学 森本泰夫氏
全日本民医連呼吸器研究会記念講演ノートより (2005.12) 文責・平野
疫学
罹患率:0.5/100万人(1995 日本)
発生頻度:肺がんの1%以下
男女比 男性205名、女性74名(1995 日本)
平均年齢:男性61.9歳、女性48.2歳
原因:80%以上が石綿
石綿曝露による潜伏期間:平均が30-40年
石綿肺や肺がんと比べて低濃度曝露で発症
原因
石綿曝露:ほぼ因果関係があり
エリオナイト:トルコのカパドキア 罹患率:22/1万人
その他の因子(但し、因果関係は不明)
SV40ウィルス感染:悪性中皮腫の86%陽性(擬陽性あり)
1955-63年にポリオワクチンに混入
造影剤:二酸化トリウムコロイドを主剤
放射線被曝:トロトラスト
肺結核の虚脱療法
分類
限局性中皮腫(孤立性中皮腫)
良性:ほとんど線維性:中皮下の間葉系由来
悪性:上皮性、混合性、線維性 (前2者は、びまん性初期像か不明)
限局性223例(良性141例、悪性82例)
2/3が臓側胸膜、1/3壁側胸膜 (England 1989)
びまん性中皮腫
すべて悪性:壁側胸膜から発生
病理学的分類:上皮性、混合性、肉腫性
頻度としては、上皮性>混合性>肉腫性
びまん性悪性中皮腫の組織所見
1) Epithelioid mesothelioma (60.2%)
2) Sarcomatoid mesothelioma (8.5%)
Desmoplastic mesothelioma
3) Biphasic mesothelioma (31.3%)
4) Others
悪性中皮腫の部位別発症割合
胸膜中皮腫 : 60−90%
腹膜中皮腫 : 10%前後
心膜中皮腫 : 数%
精巣鞘膜中皮腫 : 1%前後
悪性中皮腫の全身症状
全身症状
体重減少(9〜20%)
発熱(6〜13%)
食欲低下、発汗
その他
嚥下困難・嗄声・Horner症状:縦隔胸膜への浸潤
浮腫:上・下大静膜の閉塞
自然気胸などに伴う症状
悪性中皮腫の局所症状
胸膜 息切れ(35-70%)、胸痛(50-70%)、咳(6-30%)、血痰、無症状
腹膜 腹痛、腹部膨満感、
心膜 呼吸困難、頻脈、浮腫 不整脈(心膜への浸潤)
精巣鞘膜 精巣の腫大
検査所見
◇一般検査所見
血液・尿所見
血小板増多(50%前後)、IL-6高値、WBC高値(G-CSF)
シフラ(CYFRA21-1)が高値となり、CEAは低値となる。
(腺癌では逆にCYFRA は陰性で、CEAは高値となる)
◇特殊検査所見
胸水穿刺:黄色透明
滲出液(LDH↑)・血性(30〜50%)
胸腹水中のCEAは低く、シフラ(CYFRA21-1)は時に高値を呈する。
ADAは高値。
胸水中ヒアルロン酸濃度 100mg/l (100,000ng/ml)
cut-off値 (sensitivity 62%, specificity 98%)
細胞診;好中球、好酸球、マクロファージが多い症例もあり
悪性中皮腫の画像所見
胸部レントゲン写真
限局性胸膜腫瘤像:通常多発性
外皮様所見
(lung encasement by tumor rind)
片側性の胸水
患側胸郭の縮小、縦隔偏位
胸膜肥厚像
胸部CT
結節性ないしは板状の限局性またはびまん性胸
膜肥厚像(92%)
胸水 : 30−80 %
患側胸郭の縮小、縦隔偏位
胸膜肥厚像 : 94%
葉間胸膜の肥厚像:86%
リンパ節転移 : 59%
胸壁浸潤 : 18%
病理診断
腔液細胞診:
まりも様細胞集塊 感度:32% 上皮型で陽性例が多い
(腺癌との鑑別が困難)
経皮穿刺生検:感度50%以下
胸腔鏡下生検:感度88% 特異度96%
中皮腫細胞と腺がん細胞の鑑別
中皮細胞
腺ガン
核の位置
中心
偏在
N/C比
高い
低い
細胞質
ー
大型
細胞質の染色性
濃染色
淡染色
Window(空隙)
+
ー
確定診断
以下の5点を総合的に判断する事が望ましい。
1) 胸部での進展様式と肉眼像を基に判断するマクロ
2) 通常の染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)
3) ヒアルロニダーゼ消化試験
4) 免疫組織化学染色・組織中の酸性ムコ多糖の染色
(アルシャンブルー染色・コロイド鉄染色)
5) 電子顕微鏡像 (Gold standard)
中皮腫細胞 :多数の細長い微絨毛とデスモソ―ムの存在
(⇔腺癌:短く太い絨毛。)
針生検材料でも腺癌との鑑別可能。
上皮型中皮腫の診断に有用な免疫組織化学
抗体
上皮型中皮腫陽性率
肺腺がん陽性率
Calretinin
100%
8%
Cytokeratin 5/6
(AE1/AE3, CAM 5.2)
100%
2%
WT
93%
0%
Mesothelin
100%
38%
Epithelial membrane antigen (EMA)
93%
100%
Thrombomodulin
77%
14%
HBME-1
85%
68%
(Ordonez N., 2003)
中皮腫と反応性中皮細胞増殖との鑑別に有用な免疫組織化学
抗体
中皮腫陽性率
反応性中皮細胞増殖陽性率
desmin
10 %
85 %
EMA
80%
20%
p53
45%
0%
(Attanoos, RL., 2003)
治療法
外科的手術
胸膜肺全摘出術 (extrapleural pneumonectomy)
胸膜癒着術、胸膜切除術
放射線療法:生存率の改善はなし。
感受性:small>悪性中皮腫>non-small
胸腔鏡後の局所再発予防に有効
化学療法:Gold standardはなし。反応率、PS改善
Cisplatin or Carboplatin+Gemcitabine (GEM)
Cisplatin+Pemetrexed
免疫療法:長期生存例の報告もあり
胸腔内注入法(IFN-r)
遺伝子治療:アデノウィルス+HSVtk or Bak gene
副作用防止のglucocorticoid