石綿製品5種類だけ容認 厚労省検討会が報告書 (共同通信社) 【2006年1月19日】
石綿対策で、厚生労働省の専門家による検討会は18日、石綿製品の製造などを原則、全面禁止し、現段階でほ
かの素材に置き換えることができないパッキングなど5種類の石綿製品だけは当面、製造、使用を認める、とする報 告書をまとめた。
報告書を受け、厚労省は労働安全衛生法の施行令を改正し、年内に施行する見通し。
報告書によると、当面、禁止措置から除外する石綿製品は、化学プラントや鉄鋼工場の配管接合部に使われるジ
ョイントシートや潜水艦のパッキング、ロケットのモーター用の断熱材など5種類。これら例外的に認められた場合の 使用も、既にある施設だけで、新設の工場施設などでは認めない。
この措置で年間約110トンになっていた石綿輸入量は20?30トンに減る見込み。また今回、容認した5種類の製品
についても、厚労省は別の製品の開発が進み、2008年ごろには完全な全面禁止が可能、としている。
厚労省は当初、08年までの全面禁止を目指していたが、前倒しして06年度中とした。しかし、一部に石綿製品以
外に置き換えができない製品があることが分かり、検討会で製品の絞り込みをしてきた。
石綿救済法案を閣議決定国会提出、月内成立目指す (共同通信社) 【2006年1月19日】
政府は20日、「石綿による健康被害の救済に関する法律案」と被害防止のための関
連改正法案を閣議決定した。同日開会の国会に提出、1月中の成立を目指しており、3
月中に施行される見通し。
法案によると、国が中皮腫など、対象疾病の認定基準を決め、認定患者には「石綿健
康被害医療手帳」を交付。医療費の自己負担分と療養費、亡くなった場合には葬祭料を
支給する。
法施行前に亡くなった、労災認定対象外の被害者遺族には特別遺族弔慰金と葬祭料を
支給する。申請期間は法施行日から3年間。時効で労災申請できなかった元従業員の遺
族には特別遺族年金を給付する。
具体的な給付額は政令で定めるが、政府は昨年、治療中の患者への療養手当を月額約
10万円、遺族への弔慰金280万円、葬祭料約20万円、特別遺族年金を年額240
万円などとする方針を明らかにしている。
アスベストの労災請求1人認定 福井労働局、健康管理手帳も6人に交付 (1月18日 福井新聞)
アスベスト(石綿)による健康被害の問題で、昨年十二月までに県内在住者五人から福井労働局に労災請求があ
り、うち一人について労災認定したことが十八日、分かった。また離職者が年二回無料で健康診断を受けられる健 康管理手帳(石綿)も初めて六人への交付を決定した。
同日福井市内で開かれた、有識者や労使の代表らでつくる「福井地方労働審議会労働災害防止部会」で同局が
報告した。
これまで石綿の健康被害についての労災は県内で二○○一年、電気設備工事の従事者一人が認定されており、
今回で二人目となった。
問題が表面化した昨年八月以降、同局への労災請求に関する相談は二十件あり、このうち本人や遺族ら五人から
実際に請求があった。
同局によると、五人の請求時の傷病名は、肺がんが二人(うち一人死亡)、中皮腫三人(うち二人死亡)。年齢別で
は五十歳代が一人、六十歳代二人、七十歳代一人、八十歳代一人となった。業種別では建設業が四人で残り一人 は不明。判明している四カ所の建設業の所在は県内が一、県外が二、不明が一カ所としている。
同局では今回労災認定した一人を除く四人の請求について、同僚や事業所から聞き取り調査などを行い、実際に
業務をしていたかや、業務と病気との因果関係などを調べた上で早急に結論を出すとしている。
国鉄退職者の「石綿健診」(民医連医療部ニュース)
国鉄精算事業本部は、石綿健診の範囲について「問診及び胸部エックス線とCTによる検査」を原則とする通知を
出しました。
全日本民医連より、喀痰など他の検査の扱いについて問い合わせたところ、「本人の希望や病院の健診コースに
組み込まれている場合はダメで、医師が個別に必要と判断し勧めた場合で、且つ、実施の際には事前に清算事業・ 各支社に連絡し承認をもらうことが必要」とのこと。
○国鉄清算事業・東日本支社:総務課 TEL 048−650−9537(三重・岐阜・愛知 以北)
国鉄清算事業・西日本支社:総務課 TEL 06−6304−3076(滋賀・京都・和歌山 以南)
生物学的モニタリング・バイオマーカー研究会
(北陸アスベス関連疾患検討会 服部真事務局長 05/11/08)
1. ナノ粒子・ナノ材料の健康影響研究の動向 (独立行政法人国立環境研究所 平野靖史郎)
現在では定義があいまいでナノ粒子とは概ね1-100nmの粒子とされるが、大気環境では50nm以下とされてい
る。ディーゼル車からの粉じんが問題になっているがナノ粒子は排気粒子フィルターでは除去されず、粉じんが多い 加速時より粉じんが少ないアイドリング時の方がはるかに多い。ナノ材料では酸化チタンが日焼け止め等に使用され ているが、透明感を出すために超微粒子にしたものの方が組織透過性が高く有害性が強い。アスベストの有害性も 組成だけではなくその表面構造(シラノール基)の違いが問題となるが、研究はこれから。
2. 石綿暴露と石綿関連疾患 (独立行政法人産業医学総合研究所 森永謙二)
日本の石綿はロシア・カナダ・中国からの輸入が多く、ブラジル・ジンバブエ・南アフリカからも輸入した。
石綿肺は曝露後10年以内でも発症するが、その時点では特発性肺線維症との鑑別に難渋する。20年以上たっ
て胸膜プラークなどの胸膜病変が出現すればそれにより鑑別が可能となる。
肺がん発生のリスクは(暴露濃度/L×暴露年数)が25で一般に2倍になるといわれているが繊維の種類や作業
により大きな差がある。石綿による肺がんに組織的特徴はなく、問診による暴露歴+胸膜プラークか石綿小体の存在 が決め手となる。
びまん性胸膜肥厚は結核性やリウマチ性疾患等との鑑別が必要で、その際も問診と胸膜肥厚斑の存在が決め
手。
中皮腫について石綿暴露との量反応関係があるが同じ暴露でも若年の暴露ほど発症率が高い。
胸膜プラークの検出率は単純写真で約1割、通常のCTではその2倍程度で、CTでは軟部陰影や肋骨随伴陰影と
の鑑別も比較的容易。
スティーブ・マックィーンは中皮腫でなくなり、当初はバイクスーツに含まれる石綿が原因と思われていた。しかし、
彼の回想録で18歳から軍役で造船所で働いたことがあるとのべており、それが原因と思われる。問診で原因を見つ ける困難さを示す事例である。
1987年の学校アスベストフィーバーをうやむやにしてしまった付けがこれからやってくる。遅きに失したが今回こそ
確実な対策が必要。
3. 中皮腫の血清診断 (順天堂大学病理 樋野興夫)
順天堂大学にこの8月から国内の大学では最初のアスベスト・中皮腫外来が開設され、病理医の自分も駆り出さ
れている。
今年は山際勝三郎人工発がん90周年にあたる。山際は「慢性反復性刺激によって細胞と組織は秩序の乱れ・復
旧の乱れを起こし、上皮は不規則となり発育は勝手気ままになる」との作業仮説のもと実験で発がんに成功した。し かし、ノーベル賞は寄生虫による胃の肉芽腫を人工発がんと間違えたノルウェーの学者に与えられた。今年ピロリ菌 による胃炎と胃がんの発見者にノーベル賞が与えられたのはその罪滅ぼしか。石綿による発がんメカニズムも山際 仮説により説明できる。遺伝子異常があってもがん性化境遇の違いでがん発生は大きく異なる。そこに予防や治療 介入の根拠がある。
中皮腫の早期発見のための血清診断のキット「ERC−mesothelin抗体」を開発した。human ERC/mesotheli
nは膜タンパクで中皮細胞に発現し、その分泌型は正常では血中に検出されないが中皮腫では効率に検出される。
第16回胸部疾患学会北陸地方会(1980)抄録再掲
気管支肺生検により、アスベスト小体を検出した石綿肺の1例
平野治和1)、中崎 聡1)、服部 真1)
清水 巍1) 、大門 和2)、北川正信3)
1)城北病院内科2)光陽診療所内科3)富山医薬大病理
はじめに
石綿曝露歴と典型的な胸膜肥厚斑を有し、経気管支的肺生検(以下、TBLBと略す)にてアスベスト小体を検出し
た症例を経験したので報告する。
T症例 K. H. 47歳 男性
主訴は息切れ。20歳の時1年間、石綿関連作業であるパッキン製造に従事した。その後5年間国鉄の機関区でSL
整備に従事し、その後は駅勤務をしている。家族歴、既往歴には特記すべき事なし。10年前、健康診断時の胸部レ 線で胸膜肥厚を指摘されたが、症状なく放置していた。1年前より重労働時に軽い息切れを感じるようになった。咳、 痰、血痰、胸痛は認めていない。1日20本、30年間の喫煙歴がある。
入院時身体所見では、左下肺野に軽度の胸膜摩擦音を聴取するが、チアノーゼ、バチ状指は認めず、その他にも
異常所見はない。
入院時検査成績(表1略)では、血沈が1時間値25mmと軽度亢進し、CPRが1(+)以外は特記すべき異常所見
はない。血清免疫学的検査(表2略)でも特に異常は認めず、遅延型皮内反応もすべて陽性であった。動脈血ガス 分析ではPaO2が80mmHgと軽度低下し、呼吸機能では%VC69%、1秒率68%で混合性障害を示した。胸部レ線 (写真1略)では、両面の胸膜肥厚が認められ、特に右側胸部第4肋間、左側胸部第8肋間を中心にdensityが高く、 辺縁が不整な陰影を認め、石綿由来の胸膜肥厚斑と思われる。横隔胸膜には石灰化は認められない。下肺野に は、左肺に強い間質性の線状影、索状影が認められる。45度第2斜位胸部レ線(写真2略)では、胸部肥厚斑がより 明瞭になっている。胸膜肥厚斑の厚さは、肋骨内側より計測して、正面像では右が7mm、左が12mm、45度斜位で は右が7mm左が15mmである。気管支造影(写真3略)では気管支内腔の拡張及び閉塞性変化は認めない。下葉 は縮小傾向にあり、代償的に上葉は膨張し、舌区は下方に偏位している。
B9より施行したTBLBの弱拡大組織所見(写真4略)では、不規則な軽度の間湿性線維症があり、Adenomatous
Metaplasiaも認められる。強拡大所見(写真5略)では、細気管支腔内に黄褐色のアスベスト小体が認められ、一部 は大食細飽に貧食されている。アスベスト小体の形態は念珠状、串だんご状など様々である。銀染色を施行すると (写真6略)、小体は青く染まり観察しやすい。以上の組織像より、程度はまだ軽いが間質性線維症を伴う石綿肺が明 らかに存在している。
U考察
石綿粉じんを吸入することによっておこる石綿肺症は約100年にわたり職業性疾患(1)として取扱われてきた。今日
ではわれわれは300種類以上にものぼる石綿製品(建材や自動ブレーキライニング等)に囲まれて生活しているの で、一般住民への石綿曝露(2)が問題となっている。しかし石綿関連作業に従事する労働者が汚染は当然強く、本 例ではパッキン製造時1年間、国鉄機関区SL整備時5年間の計6年間の石綿曝露があったと想定され、その後20年 を経過している。
石綿肺の診断には職業歴とともに、胸部L線上の胸膜肥厚斑(3)(pleural plaque)が重要である。Raymondら(4)は
両下肺肺底部のラ音の存在や呼吸機能上の肺活量、拡散能の低下を強調している。本例では石綿による曝露期間 は短かったが、TBLBにより、アスベスト小体とそれによると思われる軽度の肺繊維症を認め石綿肺を診断した。曝 露期間と病像にはdose relationshipがないという報告もあり、石綿肺の発生、進展には自己免疫の関与(5)も想定さ れているが、本例ではこの点異常を認めなかった。
喫煙が病像を進展させることが知られており、本例では禁煙指導と感染に対する注意が必要である。
石綿曝露歴は短かったが、典型的な胸膜肥厚斑を有し、TBLBにてアスベスト小体と軽度の肺病変を伴う症例を経
験したので報告し、若干の考察を加えた。
文献
(1)瀬良好澄;労働の科学,26(9),4~12,1971
(2) 瀬良好澄;医療,30(1),1125~1131,1971
(3)舘沢尭他;臨放,23(6),661~664,1978
(4) Raymond;Amer.J.Med,65,488~497,1978
(5) Merlin;J.Allergy.Clin.Immunol.,60(4),218~222,1977
福井県の建設作業者の石綿肺・胸膜肥厚と肺癌・悪性中皮腫に関する横断調査
主任研究者:福井産業保健推進センター相談員 菅沼成文
共同研究者:福井産業保健推進センター所長 田中猛夫
1 背景
我が国における作業環境管理と作業管理に重点を置いた労働衛生行政は一定の成功を収め、昭和30年代には
50万人程度が受診していたじん肺検診の有所見率は粉じん吸入によって引き起こされる職業性呼吸器病であるじ ん肺の発生は大幅に減少しているが、今後も健康影響が問題となると思われるものの一つが石綿によるもので、そ の発癌性から30から50年間の潜伏期を経て悪性中皮腫という予後不良の悪性腫瘍を引き起こすため、その影響の 大きさが再認識されている。わが国では、ようやく平成16年10月からは1%以上含有の建材、ブレーキ等の使用禁 止が導入されたが、石綿による悪性中皮腫は、その長い潜伏期間のため使用のピークから30−50年を経てそのピ ークが訪れると予想されている。
多くの石綿曝露集団のなかで、建設作業は1)小規模事業場が多い、2)作業現場が一時的である、3)労働者が建
設業に長期間溜まっていることは少ないなどの特徴があるため、この集団における石綿曝露状況の把握は十分にな されていない状況にある。建設作業は粉じん職場や石綿使用職場に当てはまらず、直接撮影による検診を受けてい ない石綿曝露作業者も多く存在すると考えられる。
上述を踏まえて、今回の調査では建設作業従事者における石綿関連性呼吸器疾患と呼吸器悪性腫瘍の頻度を明
らかにするために、通常の検診に直接撮影による胸部エックス線検査を加えた横断検査を行い、石綿関連性呼吸器 疾患や呼吸器悪性腫瘍の有病率調査を行うことで、福井県下の建設作業従事者の過去の石綿曝露による健康影 響を定量することを目的とした。
2 対象と方法
対象は福井県内の建築関連団体に所属する会員3000名の建設作業従事者の職場検診実施の際、直接撮影によ
る胸部エックス線検査を加えた横断検査を行った。参加の呼びかけは当該団体の事務局を通じて、研究目的と加え られた検査についての説明を含む呼びかけ文により行い、自発的な参加を以って研究への参加了承と見なした。な お、研究計画は福井大学倫理委員会の承認を得ている。
検診受診者の検診項目は、胸部エックス線検査の他、法定の血液検査である。また、通常の問診項目に加えて
石綿曝露についての自記式調査を行った。
今回法定の血液検査結果については検討項目から除外した。自記式調査については当該団体事務局から、それぞ
れの事業所を通じて個人に配布し、各自記載したものを検診時に提出してもらい未記入や持参忘れについてはその 場で記載してもらった。
胸部エックス線検査の撮影は車載型のエックス線撮影装置により行い通常の肺癌・結核検診については放射線
科医が、じん肺検診についてはILO2000年改定版国際じん肺エックス線分類に基づき産業医2名(1名はNIOSH B reader、1名はNIOSH A reader)により独立読影を行い、不一致の症例については2名の産業医が協議して最終決 定を行った。統計解析はStata7により行った。
3 結果
1)対象者の属性
検診に参加したのは3000名の会員のうち、会員本人とその家族を合わせ856人であった。その856人の参加者の
うち、男性は639名(74.6%)、女性は217名(25.4%)であった。平均年齢は男性51.9歳(標準偏差14.3歳)に対し、 女性53.3歳(標準偏差12.5歳)であり、年齢構成はそれぞれ50-59歳が最も多く3割程度を占めていた。男性の参加 者は基本的に会員本人であったが、この中に稀に家族で建築関係の職についていないものが混入していることが診 察時に判明したが、今回の調査では想定外のことであったため、これを完全に除外することはできなかった。
喫煙歴については、喫煙者が男性で288人(45.1%)、女性で18人(8.3%)であった。喫煙者の平均喫煙本数は男
性24.0±9.9本、女性15.5±8.2本、平均喫煙期間は男性25.4±12.8年、女性15.9±7.0年であった。年齢層別に検 討すると、喫煙本数は男女共に40代が最も多いが、最も喫煙率の高い層は20-29歳であり、年齢層が高くなると喫 煙率は低下した。50歳以上では男性の喫煙率は36% (148/411)であった。
2)自記式調査による石綿曝露状況
これらの全てに対して石綿曝露についての自記式調査を行った。過去に粉塵のある作業をした経験を尋ねたとこ
ろ、全体の61.1%に当たる523人が経験ありと答えた。男性に限ると76.2%がひどい埃がある作業の経験有りと答え た。アスベスト(石綿)の取り扱いについて尋ねたところ31.4%に当たる269人が経験ありと答えた。男性では263名 (41.2%)が、女性では6名(2.8%)がアスベスト(石綿)の取り扱いの経験があると答えていた。解体作業を1年以内に 経験した者が、全体で268名、男性260名と女性8名であった。これらの中で、石綿製材や石綿の吹き付けのある建 物の解体について、経験があると答えたものは、男性にはそれぞれ69名と42名であったが、女性にはどちらの取り 扱いについてもいなかった。
これらの問診結果を総合して、アスベスト(石綿)の取り扱いが過去にあったと答えたか、あるいは、最近1年間で
解体・改築時にアスベスト建材あるいはアスベスト吹付けを扱ったと答えた人の合計は276名(32.2%)であり、男性 では42.3%(270/639)であり、女性では2.8%(6/217)であった。なお、女性は6名とも最近1年間の曝露はなかった。
3)胸部エックス線所見
読影は、1名の医師(NIOSH A reader)が有所見としたものについて、もう一名の医師(NIOSH B reader)が独立し
て読影を行い分類した結果と比較した。所見が不一致であった場合再度読影を行い最終的な結果を出した。その結 果、国際じん肺エックス線分類による分類で小陰影が1/0以上のものは6例(0.70%)であり、そのうち2 例が1/0、3 例が1/1、1例が3/2であった。胸膜斑を認めるものは32例(3.74%)であった。胸膜プラークとびまん性胸膜肥厚のど ちらかを有するものを胸膜肥厚とした場合、胸膜肥厚を認めるものは5.96%(51/856)であった。男性のほとんどが建 築業を行っている会員本人であるので、所見陽性の有病率はさらに上昇する。即ち、小陰影が1/0以上のものは0. 78%(5/639)(小陰影が1/1以上のものは0.63%(4/639))であり、そのうち1 例が1/0、3例が1/1、1例が3/2であっ た。胸膜プラークとびまん性胸膜肥厚のどちらかを有するものを胸膜肥厚とした場合、男性では胸膜肥厚は7.67%(49 /639)に認めた。
また、結核検診および肺癌検診として要精密検査とされたものは、男性5例、女性2例の計7例あった。また、女性
の1例については胸膜に接する孤立性の表面平滑な腫瘤像を呈していた。悪性中皮腫を疑う所見を有する者は今回 の調査の対象には1例もなかった。悪性腫瘍を疑う陰影については今回は通常検診の通知手続きによったため、フ ォローできていない。
4)石綿曝露と胸部エックス線所見
石綿肺を示す小陰影は、有意差無いものの、曝露あり群のほうが1.45%と、曝露なし群の0.34%に比べ頻度が高か
った。胸膜斑とびまん性胸膜肥厚とを合わせた胸膜肥厚については曝露の有無による差はなかった(曝露なし5. 34% vs.曝露あり 7.25%)。この傾向は、そのほとんどが建築作業従事者である男性においても同様で、小陰影は曝 露あり群でより高い頻度を示したのに対し(表)、胸膜肥厚については曝露の有無による差はなかった。
ILO分類で3/2 s/sびまん性胸膜肥厚ありとされた作業者は精密検査を行ったところ、呼吸機能の低下も認めた。
25歳ごろから20年間ほど前にゼネコンの下請けとして、石綿ボートをかなり使ったとの作業歴が聴取された。一方、 曝露なし群での小陰影ありとされた症例は2例あり、60代女性の1例はILO国際じん肺胸部エックス線写真分類で1/ 0、60代の男性の1例は1/1と判定されていた。
4 結論
福井県内の建築関連団体の検診参加者に対する質問紙調査からは石綿曝露の可能性のあるものが、32.2%存在
した。
今回の福井県での調査における胸部単純エックス線写真による石綿関連所見の有所見割合は小陰影については
6例(0.70%)、胸膜異常所見については5.96%(51/856)であった。男性では小陰影が1/0以上のものは0.78%(5/ 639)(小陰影が1/1以上のものは0.63%(4/639))であり、そのうち1 例が1/0、3例が1/1、1例が3/2であり、胸膜 肥厚は7.67%(49/639)であった。また、悪性腫瘍を考慮して、精密検査ありとされたものは7名であった。
質問紙による石綿曝露と胸部写真との関係は、小陰影は曝露あり群のほうが、頻度が高かったが、胸膜肥厚では
曝露の有無で差が無かった。これは低濃度の曝露は十分認識されていないことを示唆すると思われる。
職業の把握が不十分であったため、(家族検診による受診者が半数程度ある模様)曝露集団が明確になっていない
点が本調査の限界である。
表 石綿曝露の有無と小陰影の有無(男性) 略
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