「アスベスト・じん肺支援福井センター」設立趣旨
2005.11.23

 2005年6月29日の夕刊各紙は、大手機械メーカー「クボタ」の元従業員79人が、胸膜中皮腫や肺がんなどの石
綿関連疾患で死亡していることを大きく報じました。その後、石綿による被害が、石綿製品製造工場のみならず造
船、自動車製造、機関車製造・解体、港湾荷役、建築関係と広範囲であることが明らかになっています。さらに被害
が工場周辺住民へも及んで、公害としての側面も明らかになり、深刻な事態となったために厚生労働省や環境省も
やっと本格的な対策を講じはじめたといえいるでしょう。

 アスベストは防熱・耐火性にすぐれ摩耗に強い安価で加工しやすい材料であったため、アスベストを使用した製品
は3,000種類に及び、私たちの日常生活いたるところに使われてきました。70年代から90年代にかけて多くのア
スベストが輸入され、多い年は30万トン以上になっています。今後10年間で建設解体現場から4,000万トンの石
綿含有廃材の排出が予定されるなど、大きな問題となることがすでに指摘されていました。
 
 8割以上がアスベストのばく露が原因といわれる中皮腫については、2000年から40年間に10万人の胸膜中皮
腫による死亡者がでるという驚くべき予測もあります。今後、解体などによるアスベストの飛散により、職域だけでな
く地域的にも被害が広っがていくことが懸念されています。1995年以来、中皮腫で亡くなった方は6,060人(04
度は10月7日の厚労省発表で953人と過去最悪)に及びますが、労災認定された方は284人(4.77%)に過ぎま
せん。
 この原因は、ばく露から発症までの時期が長いことや、就業中の労働者に対する教育が不十分であったこと、医療
機関で職歴把握が十分行われていないこと、さらに労災申請がわかりにくく不十分なことなどです。さらに労働者の
作業衣の洗濯でばく露して罹患した家族、アスベスト工場近くの地域の人々などは労災補償の対象にならないこと
も大きな問題と言えます。

 私たちは、このような深刻な事態をもたらした企業と国の責任を強く指摘せざるをえません。日本において、遅くとも
1960年代にはアスベストの発がん性、中皮腫との関連はわかっていました。70年代は世界の専門機関から様々
な研究報告書による規制の勧告がなされ、国においても周辺住民の健康被害、危険性を知っていました。80年代
はILOやWHOなどの組織、ついで欧米各国が次々と製造・使用禁止措置をとり続けます。日本では1995年にやっと
有害性の高い茶石綿、青石綿の製造・使用禁止措置がとられ、アスベストを「原則禁止」としたのは2004年でし
た。その結果、欧米諸国にくらべ対策がかなり遅れることになりました。
 危険であることを承知しながら使用し続けた企業、規制しようとしなかった国の責任が問われています。福井県は
全国に先駆けて「アスベストの健康被害に関する条例」を制定したものの、国が提案する予定のアスベスト新法は報
道内容をみるかぎり、全ての被災者を救済するという観点からは、実に不十分なものといわざるをえません。

 このアスベスト問題を重視して、福井県内の労働組合や医療関係組織などが実行委員会をつくり8月と10月に「ア
スベスト被害電話相談」を始めました。その結果多数の県民から相談があり、事態の深刻さをあらためて認識しまし
た。この経験から、労災認定など被災者への援助、県民への情報提供、学習活動、予防活動、国・企業に対する働
きかけなど市民団体としての活動が重要であると考え「アスベスト・じん肺支援福井センター」を設立することとしまし
た。

私たちは当面、以下の取り組みを労働者・県民の立場に立ってすすめていきます。

1,相談会、電話相談を引き続き行います。
2,労災認定にかかわる援助を行います。
3,学習会等要望のあるところ、適切な講師を派遣します。
4,石綿関連事業所等における健康被害の調査活動を行います。
5,医療機関等協力関係機関を広げ、健診活動を行います。
6,健診費用の公的負担など含め、自治体、企業、国への働きかけを行います。
7,アスベストの早期全面使用禁止など被害防止活動に取り組みます。

福井センターの役員は以下の方々です。
  * 坪田康男(全国トンネルじん肺根絶弁護団)
  * 吉田隆 (福井県高等学校教職員組合・委員長)
  * 平沢孝 (福井県労働組合総連合・議長)
  * 辻照子 (新日本婦人の会福井県本部・会長)
  * 高橋初美(建交労福井農村労組・委員長)
  * 大門和 (福井県医療生活協同組合・理事長)
  * 平野治和(福井県民主医療機関連合会・会長)

設立を紹介した新聞記事 newspaper.pdf