出典: 労働省安全衛生部労働衛生課編 「じん肺診査ハンドブック」1978年
(1) 肺機能検査の体系
じん肺の所見があると認められた者(エックス線写真で一側肺野の1/3を超える大陰影があると認められた者を除
く。)のじん肺管理区分の決定に当たっては,じん肺による肺機能障害が著しいか否かを判断する必要がある。その
ため,じん肺法においては,じん肺にかかっているか又はその疑いのある者で胸部エックス線撮影検査と胸部臨床
検査により合併症にり患している疑いのない者及び合併症に関する検査で療養を要する合併症にり患していないと
診断された者を対象に肺機能検査を行うこととされている。
肺機能検査は1次検査と2次検査に分けて行う。
1次検査では,スパイロメトリーによる検査とフロー・ボリューム曲線の検査を行い,スパイロメトリーによる検査より
パーセント肺活量(%VC)及び1秒率(FEV1.0%)を求め,フロー・ボリューム曲線の検査より最大呼出位から努力肺活量
の25%の肺気量における最大呼出速度(V25)を求める。
2次検査では動脈血ガスを測定する検査を行い,動脈血酸素分圧(PaO2)及び動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)を測定
し,これらの結果から肺胞気・動脈血酸素分圧較差(AaDO2)を求める。動脈血ガスの測定に先立って耳朶血の酸素
分圧を測定し,酸素分圧が80%以上であれば動脈血採血を省略して「著しい肺機能障害がない」と判定してよい。
2次検査は次のいずれかに該当する者に対して行う。
@ 1次検査の結果,"著しい肺機能障害がある"と診断された者以外の者で,"要2次検査"と判断されたもの
A 1次検査の結果は"要2次検査"の基準にまでは至っていないが,胸部臨床検査の呼吸 困難の程度が第3度
以上の者。
B 1次検査の結果は"要2次検査"の基準にまで至っておらず,上記Aにも該当しないが,エックス線写真像が第3
型又は第4型と診断された者
C 自覚症状,他覚所見から1次検査の実施が困難と判断された者
(2) スパイロメトリー
検査によって得られた結果を次の基準に基づいて判定する。
(イ)「著しい肺機能障害がある」と判定する基準
次のいずれかに該当する場合には,一般的に,「著しい肺機能障害がある」と判定する。
@ パーセント肺活量が 60%未満の場合
A 1秒率が表2(男性)又は表3(女性)に掲げる限界値未満の場合
(ロ)「2次検査を要する」と判定する基準
次のいずれかに該当する場合には,2次検査を行う。
@ パーセント肺活量が 60%以上で 80%未満の場合
A 1秒率が表4(男性)又は表5(女性)に掲げる限界値未満の場合
B V25を身長(m)で除した値が表6(男性)又は表7(女性)に掲げる限界値未満の場合
限界値については、最近のスパイロメトリー機械は自動的に算出し結果表示もされている。
一応以下に表は載せておく。
表2 著しい肺機能障害があると判定する限界値--1秒率 (男性)
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年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値
(歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%)
────────────────────────────────
21 62.39 31 58.66 41 54.93 51 51.20 61 47.47 71 43.74
22 62.01 32 58.28 42 54.55 52 50.82 62 47.09 72 43.36
23 61.64 33 57.91 43 54.18 53 50.45 63 46.72 73 42.99
24 61.27 34 57.54 44 53.81 54 50.08 64 46.35 74 42.62
25 60.90 35 57.17 45 53.44 55 49.71 65 45.98 75 42.25
26 60.52 36 56.79 46 53.06 56 49.33 66 45.60 76 41.87
27 60.15 37 56.42 47 52.69 57 48.96 67 45.23 77 41.50
28 59.78 38 56.05 48 52.32 58 48.59 68 44.86 78 41.13
29 59.40 39 55.67 49 51.94 59 48.21 69 44.48 79 40.75
30 59.03 40 55.30 50 51.57 60 47.84 70 44.11 80 40.38
────────────────────────────────
表2 著しい肺機能障害があると判定する限界値--1秒率 (女性)
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年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値
(歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%)
────────────────────────────────
21 70.31 31 67.70 41 65.09 51 62.48 61 59.87 71 57.26
22 70.05 32 67.44 42 64.83 52 62.22 62 59.61 72 57.00
23 69.79 33 67.18 43 64.57 53 61.96 63 59.35 73 56.74
24 69.53 34 66.92 44 64.31 54 61.70 64 59.09 74 56.48
25 69.27 35 66.66 45 64.05 55 61.44 65 58.83 75 56.22
26 69.00 36 66.39 46 63.78 56 61.17 66 58.56 76 55.95
27 68.74 37 66.13 47 63.52 57 60.91 67 58.30 77 55.69
28 68.48 38 65.87 48 63.26 58 60.65 68 58.04 78 55.43
29 68.22 39 65.61 49 63.00 59 60.39 69 57.78 79 55.17
30 67.96 40 65.35 50 62.74 60 60.13 70 57.52 80 54.91
────────────────────────────────
表4 2次検査を要すると判定する限界値--1秒率 (男性)
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年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値
(歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%)
────────────────────────────────
21 76.77 31 73.04 41 69.31 51 65.58 61 61.85 71 58.12
22 76.39 32 72.66 42 68.93 52 65.20 62 61.47 72 57.74
23 76.02 33 72.29 43 68.56 53 64.83 63 61.10 73 57.37
24 75.65 34 71.92 44 68.19 54 64.46 64 60.73 74 57.00
25 75.28 35 71.55 45 67.82 55 64.09 65 60.36 75 56.63
26 74.90 36 71.17 46 67.44 56 63.71 66 59.98 76 56.25
27 74.53 37 70.80 47 67.07 57 63.34 67 59.61 77 55.88
28 74.16 38 70.43 48 66.70 58 62.97 68 59.24 78 55.51
29 73.78 39 70.05 49 66.32 59 62.59 69 58.86 79 55.13
30 73.41 40 69.68 50 65.95 60 62.22 70 58.49 80 54.76
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表5 2次検査を要すると判定する限界値--1秒率 (女性)
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年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値
(歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%) (歳) (%)
────────────────────────────────
21 81.19 31 78.58 41 75.97 51 73.36 61 70.75 71 68.14
22 80.93 32 78.32 42 75.71 52 73.10 62 70.49 72 67.88
23 80.67 33 78.06 43 75.45 53 72.84 63 70.23 73 67.62
24 80.41 34 77.80 44 75.19 54 72.58 64 69.97 74 67.36
25 80.15 35 77.54 45 74.93 55 72.32 65 69.71 75 67.10
26 79.88 36 77.27 46 74.66 56 72.05 66 69.44 76 66.83
27 79.62 37 77.01 47 74.40 57 71.79 67 69.18 77 66.57
28 79.36 38 76.75 48 74.14 58 71.53 68 68.92 78 66.31
29 79.10 39 76.49 49 73.88 59 71.27 69 68.66 79 66.05
30 78.84 40 76.23 50 73.62 60 71.01 70 68.40 80 65.79
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以上の他、2次検査を要すると判定する限界値--V25/身長 の表もあるが、V25/身長については
データの信頼性が乏しく私(平野)自身は参考程度にしている。従って限界値の表は載せない。
肺胞気・動脈血酸素分圧較差の算出
肺胞気・動脈血酸素分圧較差を求めるためには,まず,肺胞気酸素分圧(PAO2)を肺胞式を用いて算出する。
このためには,動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2),吸入気酸素分圧(PIO2),吸入気酸素濃度(FIO2),ガス交換率(R)を
知らなければならない。
これらの値を用いれば,次式によりPAO2が算出できる。
PAO2 = PIO2 - (PaCO2)/R + (1-R)/R×PaCO2×FIO2
これらの値を知るためには,恒常状態において被験者の呼気と動脈血とを同時に採取して分析する。しかし,ガス
交換率を 0.83 と仮定することにより,近似的には呼気分析を省略し計算をすることができる。空気呼吸時には PIO2
≒150TORR,(1-R)/R×PaCO2×FIO2の項はほぼ1〜2TORRである。そこで,PAO2は次式を用いて計算することがで
き,これにはPaCO2の値がわかればよい。
PAO2 = 150 - PaCO2/0.83
従って,次式によって AaDO2 を求めることができる。
A-aDO2 = PIO2 - PaO2 = 150 - PaCO2/0.83 - PaO2
このような方法で得られる AaDO2 は,動脈血ガス分析の成績のみから計算することができる便利さがあるが,動脈
血採血は,必ず恒常状態の下で行わなければならない。また,PaCO2,PaO2は高い精度でなければならない。耳朶
血の分析で得られた値はこの目的には適当でない。
このようにして算出した肺胞気・動脈血酸素分圧較差は表8に掲げる限界値を用いて判定する。肺胞気・動脈血酸
素分圧較差が表8に掲げる限界値を超える場合には,一般的には「著しい肺機能障害がある」と判定するが,判定に
当たっては,諸検査結果とあわせて総合的に判定する。
表8 著しい肺機能障害があると判定する限界値 -- A-aDO2 (男性,女性)
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年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値 年齢 限界値
(歳) (TORR) (歳) (TORR) (歳) (TORR) (歳) (TORR) (歳) (TORR) (歳) (TORR)
─────────────────────────────────
21 28.21 31 30.31 41 32.41 51 34.51 61 36.61 71 38.71
22 28.42 32 30.52 42 32.62 52 34.72 62 36.82 72 38.92
23 28.63 33 30.73 43 32.83 53 34.93 63 37.03 73 39.13
24 28.84 34 30.94 44 33.04 54 35.14 64 37.24 74 39.34
25 29.05 35 31.15 45 33.25 55 35.35 65 37.45 75 39.55
26 29.26 36 31.36 46 33.46 56 35.56 66 37.66 76 39.76
27 29.47 37 31.57 47 33.67 57 35.77 67 37.87 77 39.97
28 29.68 38 31.78 48 33.88 58 35.98 68 38.08 78 40.18
29 29.89 39 31.99 49 34.09 59 36.19 69 38.29 79 40.39
30 30.01 40 32.20 50 34.30 60 36.40 70 38.50 80 40.60
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