(1) 良性石綿胸水とは

 良性石綿胸水とは、以下の4項目を満たす疾患をいいます。
  (1)石綿ばく露歴があること
  (2)胸部レントゲン写真あるいは胸水穿刺で胸水の存在が確認されること
  (3)石綿ばく露以外に胸水の原因がないこと
  (4)胸水確認後3年以内に悪性腫瘍を認めないこと

 注1,胸膜中皮腫の前段階病変ではありません。
 注2,悪性腫瘍や結核でも胸水が貯留するので除外することが必要です。
 注3,3年間の経過観察が必要であるため確定診断を下すことは難しいとされています。

(2)  石綿ばく露との関係

 一般的に発症率は石綿ばく露量が多いほど高く、特に、中・高濃度者では10年以内に良性石綿胸水が発症すると
言われています。
 石綿ばく露開始時期から発症までの間(潜伏期間)は他の石綿関連疾患より短く、ばく露から20年までに出現する
ことが多いと言われていましたが、田村ら(1994)は平均28.7年(22-34年)、岸本ら(1998)は、21年以上の症例が17
例中16例(94.1%)で平均34.5年と長い潜伏期間を持って発症する場合があると報告しています。
 石綿肺を伴う症例の頻度は少なく、むしろ胸膜プラークを認める症例の方が多かったという報告もあります。
 
 半数近くが自覚症状が無く、健康診断で発見されることもあります
 症状がある場合には、胸痛、発熱、咳嗽、呼吸困難の頻度が高くなっています。

 良性石綿胸水の場合の胸水の性状は滲出液で、半数が血性です。約4分の1に好酸球性胸水が見られます。
 胸水の持続期間は平均3ヶ月(1〜10ヶ月)であり、無治療で軽快する場合が多いとされますが、胸水が被包化さ
れて残存することもあります。

 特別な治療方法は無く、副腎皮質ステロイド剤が奏効することもあります。
 一方、再発率も25〜40%あります。

 通常、胸水消失後に片側あるいは両側に肋骨横隔膜角の鈍化あるいは円形無気肺を残します。
 また、胸水が完全に消失せず遷延する場合もあり、注意深い臨床経過の観察が必要な症例も存在します。良性石
綿胸水は、胸水が消失した後に約半数の症例でびまん性胸膜肥厚を残すと考えられています。

 石綿ばく露歴が明白で、原因不明の胸水が存在し、臨床的に良性石綿胸水あるいは中皮腫が疑われる症例に
は、胸腔鏡下胸膜生検による鑑別を行うことが勧められています。