歴史

 世界ではじめて「重篤な石綿肺の人に肺がんが多い」と報告したのは、Lynch・Smith(米)とGloyne(英)で1935年
であったが、あまり注目されなかった。
 その後、1950年前後に石綿肺の肺がん合併率が、けい肺の肺がん合併率よりも高い報告が相次ぎ注目されるよ
うになった。
 1955に、石綿と肺がんの因果関係は疫学的には証明された(Doll・英)。
 石綿と肺がんの関係では、喫煙との相乗作用があることが特徴である。すなわち、石綿ばく露も喫煙もない者の肺
がんリスクを1とすると、石綿ばく露では5倍、喫煙では10倍、石綿と喫煙両方では50倍のリスクとする報告がある。


臨床・病理 

 扁平上皮ガンがやや多いとの報告(岸本らの検討では扁平上皮ガン45% 腺ガン43%)もあるが、現在までの研究
では肺がんの組織型に特徴がないとされている。
 発生部位では下肺野に多いとの報告が多いが、特徴がないとする報告もある。
 石綿ばく露から肺がん発生までの潜伏期間は43年(中央値 岸本ら)、32年(中央値 濱田ら)との報告がある。少
なくとも10年までの潜伏期間は必要と推測されている。
 一般的に、石綿肺の所見が強い(ばく露量が多い)方が、肺がん発生は多いと考えられている。しかし、石綿肺が
なく、胸膜プラークのみの例(ばく露量が少ない)でも肺がんリスクは高くなるとの報告もある。
 従って現在ではアスベスト自体が肺ガン発生には重要であると考えられている。

画像

 共存する胸膜や肺病変(石綿肺など)を除いて、石綿ばく露者の肺がんとばく露を受けていない肺がんとの画像上
の違いはない。

治療 

 肺がんそのものの治療においては、石綿ばく露者の肺がんと、ばく露を受けていない肺がんとの違いはない。

建設作業者の石綿関連肺がんの検討 (海老原勇・職業性疾患・疫学リサーチセンター理事長)

 111例の肺がん症例について検討したところ、石綿肺所見ありが38例(34%)、胸部XPで胸膜肥厚斑ありが37例
(38%)、胸部CTで胸膜肥厚斑ありが69例(62%)といずれも高率であった。建設作業者の肺がんには石綿関連が多く
注目すべきである。